イールドカーブとは
イールドカーブとは、債券利回り(イールド)と償還期間をプロットしたグラフのことを指します。これは、金融市場の参加者が将来の金利についてどのように考えているかを示す重要な指標となります。
イールドカーブの形状は大きく以下の3つに分けられます。
- 正常イールドカーブ(アップワードスローピング)
これは最も一般的な形状で、短期の債券の利回りが長期の債券の利回りよりも低い状態を示します。これは、長期にわたる投資は不確実性が高いため、高い利回りが求められるという考え方を反映しています。 - フラット(またはホリゾンタル)イールドカーブ
短期と長期の債券の利回りがほぼ同じである状態を示します。これは、市場参加者が短期と長期の経済状況について同じように見ていることを示しています。 - 逆行(またはダウンワードスローピング)イールドカーブ
長期の債券の利回りが短期の債券の利回りよりも低い状態を示します。これは比較的珍しく、経済が減速するか、またはリセッションに向かっている可能性があると市場が予想していることを示しています。
イールドカーブは、中央銀行の金融政策やマクロ経済の状況を理解するための重要なツールであり、また経済の将来的な動向を予測するための指標ともなります。具体的な形状や動きは、その時点での市場の状況や経済の見通しによります。
イールドカーブの計算方法
イールドカーブの計算方法は以下の通りです:
- 債券の選択
まず、同じ信用リスクを持つ一連の債券を選びます。通常、無リスクと見なされる国債が使用されます。 - 利回りの計算
各債券の利回り(イールド)を計算します。利回りは、債券の現在価格に対する利息と元本の現在価値の合計を表します。 - 満期と利回りのプロット
次に、各債券の満期(債券が元本を返済するまでの期間)をx軸に、その利回りをy軸にプロットします。 - イールドカーブの描画
最後に、プロットした点をつなげてイールドカーブを描きます。
※出展:均衡イールドカーブの概念と推移(日本銀行)より
イールドカーブとマクロ経済指標との関連性
- GDPとの関連性
イールドカーブは経済の成長予測と密接に関連しています。正常なイールドカーブ(長期利回りが短期利回りより高い)は、経済が成長すると市場が予想していることを示しています。逆に、逆行イールドカーブ(長期利回りが短期利回りより低い)は、経済が縮小する可能性があることを示しています。これは、GDP(国内総生産)が経済の成長を示す主要な指標であるため、イールドカーブはGDPの将来的な動向を予測する一助となります。 - インフレとの関連性
イールドカーブはまた、インフレの予測にも使用されます。正常なイールドカーブは、将来的にインフレが上昇すると市場が予想していることを示しています。これは、長期債券の利回りが高い理由の一つは、投資家がインフレによる購買力の低下を補償するためのプレミアムを求めているからです。逆に、逆行イールドカーブは、将来的にインフレが低下する可能性を示しています。 - 失業率との関連性
逆行イールドカーブはしばしば経済の減速またはリセッションの先行指標とされ、これらの状況は通常、失業率の上昇と関連しています。したがって、逆行イールドカーブが観察された場合、それはしばしば失業率の上昇を予測します。
イールドカーブと金融市場との関連性
- 株価との関連性
イールドカーブは、株式市場の将来の見通しを予測するための重要なツールとなります。正常なイールドカーブは、経済が成長し、企業の利益が増加すると市場が予想していることを示しています。これは、株価が上昇する可能性が高いことを示しています。逆に、逆行イールドカーブは、経済が減速またはリセッションに向かっている可能性があることを示しています。これは、企業の利益が減少し、株価が下落する可能性があることを示しています。 - 債券価格との関連性
イールドカーブは、債券価格の動向を理解するための重要なツールでもあります。債券の利回り(イールド)と価格は反対の関係にあります。つまり、利回りが上昇すると価格は下落し、逆に利回りが下落すると価格は上昇します。したがって、イールドカーブの形状は、異なる満期を持つ債券の価格動向を示すことになります。例えば、長期債の利回りが短期債の利回りよりも大幅に上昇すると(正常なイールドカーブ)、長期債の価格は短期債の価格よりも大きく下落する可能性があります。
中央銀行の金融政策とイールドカーブ
- 金利の引き上げ
中央銀行がインフレ抑制のために金利を引き上げると、短期金利が上昇します。これにより、短期債の利回りが上昇し、イールドカーブはより急な形状になる可能性があります。しかし、市場が将来的に経済が減速すると予想する場合、長期金利はそれほど上昇せず、イールドカーブはフラット化するか、逆行する可能性があります。 - 金利の引き下げ
一方、中央銀行が経済刺激のために金利を引き下げると、短期金利が下落します。これにより、短期債の利回りが下落し、イールドカーブはフラット化するか、逆行する可能性があります。しかし、市場が将来的に経済が回復すると予想する場合、長期金利はそれほど下落せず、イールドカーブは正常な形状を保つか、より急な形状になる可能性があります。
金融危機とイールドカーブ
金融危機は、金融市場や経済全体が混乱し、金融機関の健全性が脅かされる状況を指します。これは、信用収縮、資産価格の急落、金融機関の破綻など、さまざまな形で現れます。
イールドカーブは、金融危機の予兆となることがあります。特に、「逆行イールドカーブ」は、経済が減速またはリセッションに向かっている可能性を示すため、金融危機の先行指標となることがあります。
逆行イールドカーブが形成されると、これは長期の債券の利回りが短期の債券の利回りよりも低い状態を示します。これは、市場参加者が将来的に経済が減速すると予想し、その結果として中央銀行が金利を引き下げると予想していることを示しています。金利の引き下げは通常、経済の減速またはリセッションを防ぐための政策対策です。
したがって、逆行イールドカーブは、市場が金融危機を予期している可能性を示す重要な信号となります。実際、過去の金融危機、例えば2008年のグローバル金融危機の前には、逆行イールドカーブが観察されました。
ただし、逆行イールドカーブが必ずしも金融危機を意味するわけではなく、他の経済指標と合わせて考慮することが重要です。
イールドカーブを用いた経済の予測
イールドカーブは、金融市場の参加者が将来の金利についてどのように考えているかを示す重要な指標となります。その形状は、経済の将来的な動向を予測するための重要な手がかりを提供します。
- リセッションの予測
逆行イールドカーブ(長期利回りが短期利回りよりも低い)は、経済が減速またはリセッションに向かっている可能性を示すことがあります。これは、市場参加者が将来的に金利が下落する(つまり、中央銀行が金利を引き下げる)と予想していることを示しています。実際、過去のリセッションの多くは逆行イールドカーブが先行して発生していました。 - インフレの予測
正常なイールドカーブ(長期利回りが短期利回りよりも高い)は、将来的にインフレが上昇すると市場が予想していることを示しています。これは、長期債券の利回りが高い理由の一つは、投資家がインフレによる購買力の低下を補償するためのプレミアムを求めているからです。 - 金利の予測
イールドカーブは、将来の短期金利の動向を予測するためにも使用されます。市場参加者が将来的に短期金利が上昇すると予想すると、イールドカーブは急な上昇傾向を示します。逆に、市場参加者が将来的に短期金利が下落すると予想すると、イールドカーブはフラット化または下降傾向を示します。
イールドカーブの予測能力の限界と課題
- 市場の期待と現実の乖離
イールドカーブは、市場参加者の将来の金利に対する期待を反映しています。しかし、これらの期待は必ずしも現実に反映されるわけではありません。経済状況は多くの要因によって影響を受け、これらの要因はすべてイールドカーブに反映されているわけではありません。 - 逆行イールドカーブとリセッションのタイミング
逆行イールドカーブはしばしば経済の減速またはリセッションの先行指標とされますが、リセッションが発生する具体的なタイミングを予測することは難しいです。逆行イールドカーブが観察された後、リセッションが発生するまでの期間はケースにより大きく異なります。 - 政策介入の影響
中央銀行の金融政策や政府の財政政策など、政策介入はイールドカーブの形状に大きな影響を与えます。これらの政策介入は、市場の自然な動きを歪める可能性があり、その結果、イールドカーブの予測能力を低下させる可能性があります。 - グローバル化の影響
金融市場のグローバル化は、国内のイールドカーブだけでなく、他国の金利環境も考慮に入れる必要があります。例えば、他国の高い利回りに引き寄せられて資本が流出すると、国内の長期金利が上昇し、イールドカーブが歪む可能性があります。